小説「BLEACH Can’t Fear Your Own World」の伏線回収やネタバレ

本作「BLEACH Can't Fear Your Own World」は全3巻で構成された小説であり、漫画BLEACHで描き切れなかった久保帯人先生の設定を詰め込んだ一冊であると共に、尸魂界や死神の起源から霊王の誕生等の伏線回収が詰まる、成田良悟先生が執筆されたBLEACHの深淵が覗ける一冊でもあります。

物語は後に「霊王護神大戦」と語られる千年血戦編から半年程経過した時間軸で展開され、護廷十三隊九番隊副隊長「檜佐木修兵」を主軸に置いた尸魂界の黎明期より内包し続けた様々な罪を白日の下に晒す群像劇であり、やがて檜佐木を巻き込んだ尸魂界の危機へと歯車は逸れていくといった内容のため、星十字騎士団のその後や嘗ての敵である破面や完現術者が一部登場するのです。

ユーハバッハを倒した今、敵は居ないのではと思いがちですが、ここで登場するのが四大貴族が筆頭の綱彌代家であり、綱彌代家と末裔の時灘を発端にいくつもの伏線が回収されながら物語は進められていきます。

そこで、

  • 綱彌代時灘の人物像と伏線や最期について
  • 産絹彦禰の人物像と伏線や最後について
  • 道羽根アウラの人物像と伏線や最期について

以上3名のキーパーソンである新キャラクターの人物像を伏線やネタバレを混ぜて紹介するので、順に見ていきましょう。

目次

綱彌代時灘の人物像と伏線回収

  • 名前:綱彌代時灘(つなやしろときなだ)
  • 性別:男
  • 年齢:不明(京楽、浮竹と同期)
  • 所属:四大貴族綱彌代分家末席→綱彌代本家当主
  • 斬魄刀:九天鏡谷→艶羅鏡典
  • 声優:津田健次郎

BLEACHに於いて最も残忍で他者をあざける事に長けた最低最悪の性格の持ち主であり、その極悪非道で冷徹な行いは悪い意味で藍染やユーハバッハを凌いでいます。

作中登場時では綱彌代家分家末席として本家からも軽んじられている立場でしたが、時灘の仕掛けた謀略により本家筋の人間を悉く暗殺し、綱彌代家当主の座を確立させました。

また、相手を持ち上げた後に絶望やどん底に陥った表情が見てみたいといった嗜虐的欲求を満たしたい理由から、BLEACHに於ける大体の悪事に時灘が関係していると発覚します。

時灘は、京楽や浮竹の霊術院時代の同期であり、浮竹は時灘の事を友達だと思っていたそうですが、時灘と京楽の二者間は当時から牽制していた仲で、京楽曰く「時灘はできないと思わせておいて土壇場でできることを見せつけて相手の反応を楽しむ」ような男だと話していました。

そして、綱彌代家は過去そのものを管理する立場から全ての情報が集積された大霊書回廊と全ての歴史を記録する番人であるとされ、そんな時灘から判明した事柄は何れも本編の伏線に関わる重要なものばかりで、BLEACHの世界の核心に触れる内容ばかりとなります。

綱彌代時灘が敵となった理由とその目的

霊王の存在が世界の象徴であり絶対の存在であると同時に三界(尸魂界・現世・虚圏)の楔で遍く魂魄の流れを司る礎というのは、死神の大前提として伝えられていました。

しかし、時灘は少年期に綱彌代家の書庫の最奥に隠された暗号文を解明し、綱彌代家の祖や四大貴族が犯した罪を知ってしまうのです。

時灘の期待通りに世界は腐っていて自分達は想像以上に救いがないと知った、少年にして既に歪んだ情動を抱きかかえていた時灘は、矮小な悪であることを刻み続けた綱彌代家に感謝し、世界が悪辣であるらば俺もまた悪辣であるべきだと考え至るのでした。

尸魂界最後の日が訪れるその日まで必要悪ではないまったく必要の無い悪として、悪を正当化した尸魂界に存在することを誓います。

つまり、元々歪んだ情動を抱え込んでいた時灘にとって、綱彌代家の犯した罪や尸魂界の本当の歴史を知った事は、時灘の中にあった欲望や悪意そして嗜虐心の全てが自分には許されるのだと再認識したに過ぎず、時灘の欲望を最大限に満たす為と悪意を解放する為の遊び場を得るといったささやかな目的を与えただけなのです。

故に綱彌代家を筆頭に起きた四大貴族の祖の罪が、時灘の悪意を正当化させBLEACHの世界の全てを狂わせたといっても過言ではありません。

時灘の目的はただの嗜好

黒崎一護がユーハバッハを討たなかったら世界の楔が消滅していた事実を尸魂界の一部の人間しか知らない現状を世界に知らしめる為、時灘はアウラに創造させた霊王宮を空座町に浮かべて死神と魂魄そして虚の存在を公にしようと企てます。

それを前提に、今まで宗教を信じていた人間達は大混乱し、「あの世なんてない」と思っていた人達は死後の世界が存在する事を知ってしまうと語り、それは死後の世界の存在を知った人間達の堕落や犯罪性の助長を示唆する社会システムの基盤を根底から覆す無政府状態へ誘うものでした。

「地獄へ堕ちる基準はあるのか」、「基準に満たなければ悪事を尽くす事が許されるのか」、それらの思念が何れ尸魂界へ赴いた際に流魂街に新たな宗教を築き上げ、混乱が現世から尸魂界にまで波及してしまうのです。

しかし、この時灘の目的も当人の偸安によるものであり、京楽は「人が自分達の信じていた価値観を崩されて混乱しながら争い自滅していく様を氷菓子でもつまみながら笑って眺めたい」だけという時灘の嗜好を分析し、灘の行動が「混乱する社会が見たいから」という曖昧な事柄に付随している事が明らかにされます。

これまで登場した悪役である藍染やユーハバッハでさえ、世界の楔とされた霊王を殺害或いは解放するといった共通理念を持ち尸魂界と敵対したわけですが、時灘に至っては世界を壊すのに充分な理由は存在せず、ただひたすらに「見てみたい」という嗜虐的思考から敵対するだけなのです。

ある意味では、完全なる最低最悪のラスボスでしょう。

霊王と五大貴族の祖の罪

霊王とは、まだ世界に生死の境のない殺伐とした原初に生まれた異能の持ち主であり、現代で言うところの滅却師・死神・完現術者の源流ともなる力を宿し虚に立ち向かった人物と明かされています。

霊王が虚を滅却することにより、虚が人間を捕食し続けることで魂魄が巨大な大虚に成り果てやがて世界が静止するといった事態を避ける事ができたのですが、後に尸魂界・現世・虚圏の三界を創り機能させるため霊王の力が必要になりました。

しかし、五大貴族のうち四貴族が霊王の力でより循環や規律を必要したのに対し、綱彌代家の祖だけは霊王の滅却の力が自分達に向けられるのを恐れ、他の四貴族に無断で霊王を水晶へ封じ込め抵抗や復讐が出来ないように四肢を捥ぎ取りその肉体を生贄としたのです。

発端は綱彌代家の祖にありますが、以降他の祖もこれに習い霊王を生贄として奉っていることから、時灘は尸魂界の成り立ちや現四大貴族を貶し、本作の敵役として君臨します。

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BLEACHの表紙

東仙要の友人「歌匡(かきょう)」についての回収

原作44巻386話や東仙の回想で何度か登場し亡くなったとされる親友「歌匡」ですが、本作で綱彌代時灘こそが東仙要が復讐に身を焦がす元凶であり歌匡を殺害した張本人だと言う事が判明しました。

当時、綱彌代本家が偶然見つけたとある素養を魂魄の底に秘めたとされる歌匡に目をつけると、実験体として活用するため当時分家末席で比較的立場の弱い時灘に結婚するよう命令を下しますが、時灘はただ「絶望する顔が見たい」という理由から祝言後に歌匡へ真実を告げるのです。

しかし、時灘の期待とは裏腹に、本性を明かしたにもかかわらず、歌匡は失望も絶望もせず全て承知の上で結婚に至ったと語り、挙句、時灘に対し「貴方はまだ、星を見た事がないだけよ」と綴り、その歌匡の言葉が与える側の立場である時灘を遥か上の高みにいる場所の者から何かを与えられる立場へと貶められたような錯覚に陥らせ、それが時灘はどうにも許せませんでした。

時灘は戸惑いと苛立ちを覚え、将来席官間違いなしと噂される死神として力をつけ始めた歌匡にこのままでは全てが乗っ取られ自分という存在が浸食されると焦りを覚えるのです。

そんな中、時灘にとって幸か不幸か、表向き親友として付き合っていた平民上がりの死神の男が綱彌代家の計画を知り、歌匡を救おうと時灘を呼び出し真意を問い質すのですが、時灘は「親友だと思っていた者がただの外道だと気づいたとき、男がどのような顔をするのかを見てみたい」と思い、あっさりと真実を告げます。

男は時灘を友として斬ることを宣言し刀を抜くと、時灘もまた笑みを浮かべながら斬魄刀を手にし、二人は伯仲した実力のまま幾度も刃を斬り結ぶものの、時灘の帰りが遅いことを案じた歌匡が現場へ訪れるなり事態を察知して二人の間に割って入るのです。

その瞬間も歌匡の絶望が見たいと思った時灘は迷う事なく歌匡を前へ蹴り飛ばし男ごと斬り捨てるのですが、歌匡は最期まで「私は……貴方の雲を払ってあげられなかった……」と時灘を憐れむように事切れるのでした。

結果として、時灘は最後まで歌匡に見下され憐みを向けられたと激昂し、時灘は自らは最初から雲の上に立っていると憤慨すると、我先に輝こうとする星屑共の醜さになぜ気づかないのだと吐き捨てる一方で、歌匡には世の中の理不尽さを知らせ平和を愛する尊く正しい願いが無駄であることも教えたかったと吐露し、そういう意味では愛していたと零すのです。

そして最後には、歌匡の心を悪に塗り替える事ができれば本当に心を開いてやったものをと、最早聞こえていないであろう亡き妻の前で口ずさみました。

東仙要の復讐についての伏線回収

小説で語られた中には、原作45巻387話で差し込まれた東仙の回想シーンの直後の話があり、時灘は、流魂街で暮らしていた盲目の青年・東仙要が歌匡の死に対して瀞霊廷官庁街に抗議しに来たところへ自ら接触し、目が見えない事を利用して歌匡を殺害した夫についての情報を一切合切語り尽くし、それが五大貴族の血筋であり歌匡に反逆の罪を着せた末に処刑の形に取り繕った事を東仙に伝えたのです。

加えて、時灘は歌匡という人間が「誰よりも真っ直ぐな人で正義と平和を心に抱き続けた人」であると語ることで東仙の復讐心を宥め諭し、東仙は平和を愛する歌匡の意志を汲み自分を諫めてくれた時灘に感謝の意を述べ名前を教えて欲しいと頭を下げます。

そして、時灘は特段感慨もなく「ああ、私の名は時灘だ。綱彌代時灘」と淡々と自己紹介を済ませ、自身が東仙の親友の夫であるのと同時に親友の仇でもあることを冷静に伝え、事前に陳述したことで東仙が復讐を望まないと言ってくれた事を喜んでみせるのでした。

また、東仙がそれでも復讐を望んだ際はここで斬っていたとも話し、案の定、真実を知り激昂した東仙は時灘へと組みかかるものの一方的な暴力によって撃沈し、時灘はその暴力の最中でさえ「歌匡ならば私を許すぞ?」と東仙の感情を更に煽るのです。

時灘が立ち去った後、時灘の命令を受けた官庁街の門番が東仙を袋叩きにしていたところへ当時ただの死神だった藍染惣右介が助けに入り、東仙へ「その胸に満ちた憎しみを、暫し僕……私に預けるつもりはないか?」と手を差し伸べたことで、東仙は藍染と知り合い死神や尸魂界の罪の全てを知ることになります。

つまり、BLEACH本編では東仙は既に尸魂界の成り立ちを知っており、東仙は歌匡の死やそれに追いやった時灘を筆頭とする四大貴族の罪を裁くべく、世界の理を崩そうとする藍染へ付き従っていたのです。

藍染が東仙を殺害した理由

原作45巻387話で藍染が破面編で東仙を殺害した理由についても、小説内で語られた過去回シーンの会話の中で明らかにされており、藍染は最大の忠臣者で腹心である東仙に望むものはあるかと願いを聞き入れようとします。

東仙の回答は、もしも自分が死神達の世界を受け入れる事があればそれは自らの大義の否定となり行ってきた全てはただの殺戮になると自明し、それは歌匡の死と在り方の全てを穢す行為であることから歌匡を二度殺すも同義だと語っていて、そして、東仙は歌匡の善性に堕落する前に魂魄を全て撃ち砕きこの世から消してほしいと藍染に進言するのです。

この回答を受けた藍染は歌匡という人間性が「彼女が生きていたら東仙を許す」性格であると綴り、もし藍染が霊王に代わり天に立ったとして新たな世界を作り上げたらどうするのだと東仙に改めて問いかけます。

しかし、その場合でも東仙は「私のような復讐に囚われた者が存在してはならぬ世界」と前置きし、藍染が天に立った後は世界の浄化を完全な物とすべく自害をすると断言するのです。

藍染は何れにせよ腹心を一人失うのかと逡巡した後、東仙が死神達の許しに苦しむ事となる前に必ず消し去る事を絶対者として約定しました。

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BLEACHの表紙

伊勢七緒の母についての伏線回収

七緒の母は表向き神器・八鏡剣の紛失によって処刑されたわけですが、実はこの背景にも時灘は暗躍しており、時灘は神器の紛失を理由に七緒の母を拷問しようと考えていたのです。

しかし、当時の朽木家当主である朽木銀嶺によって時灘の目論見は阻止されていた事を京楽に語り、さすがにこの事実を知らなかった京楽も銀嶺には心の底から感謝していました。

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BLEACHの表紙

銀城空吾と浮竹十四郎の関係の回収

本編で語られなかった伏線の代名詞としてあげられる銀城関連の謎にも時灘が密接に関係していることが判明しました。

当時死神代行として活動していた銀城でしたが、突然死神側から襲撃を受けることになり完現術者の仲間を殺害され、銀城が死神側の追跡者を返り討ちにした結果、浮竹の指示で尸魂界の反逆者となったというのが本編で説明されている経緯です。

しかし、裏では時灘の指示で尸魂界の映像庁が完現術者を監視している事、時灘自身が完現術者の魂魄が欲しくて回収しようとタイミングをうかがっていた事が判明し、時灘は銀城の襲撃記録を改竄した報告書を四十六室へ上げ、四大貴族の特権を利用して銀城が先行した反逆に仕立て上げたました。

この件に関して浮竹は最後まで銀城を信頼し上層部に反発していたと綴られており、後に綱彌代家の権力のごり押しを受けたことで最終的には銀城の罪状を認め死神代行の討伐を決断するに至ったのです。

因みに、小説内でこの真相を知った銀城は戦いの終結後に京楽と少しだけ会話をしており、何れ浮竹の墓参りに行くと約束するなど、僅かながら葛藤が綻んでいる事が描かれています。

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BLEACHの表紙

綱彌代時灘の辿った結末

綱彌代家の権力を悉く行使し尸魂界を掻き乱してきた時灘ですが、叫谷にて疑似の霊王宮「空中楼閣」を用意し、転移装置を利用して空座町へ死神と魂魄の存在を知らしめる準備をしていました。

それを阻止すべく、京楽は護廷十三隊の一部勢力と銀城達完現術者や滅却師そして破面の面々と手を組み、時灘が潜伏する叫谷へと侵攻するのです。

叫谷には已己巳己巴が生み出した無数の虚が群がっており、已己巳己巴の相手を滅却師達や破面達が、時灘の下僕である産絹彦禰の相手を剣八買って出て、京楽を筆頭に六車や七緒は時灘と戦います。

そして、已己巳己巴が敗北を喫したのを契機に彦禰が已己巳己巴を完全に屈服させ帰刃へ至り剣八と対面で勝負を続行することとになり、残りの戦力を時灘一人で相手取るのです。

しかし、時灘は「艶羅鏡典」の始解を以て藍染の鏡花水月の能力を始点にあらゆる能力を行使することで一人でも全員を圧倒し、その戦いに勝利の兆しが見えた刹那、この場に不釣り合いな異分子である檜佐木修兵の参戦によって戦況が一変し、時灘は艶羅鏡典で作り上げた鏡花水月の壁を突破されてしまいます。

尚且つ、アウラの裏切りを受けて一時は時灘を討ち取ったかと全員が浮足立ちましたが、瑠璃色孔雀の霊圧吸収能力で強大なアウラの霊圧を吸い取ることで危機を脱し、瓠丸の治癒能力で自身の傷を癒すのです。

ですが、時灘が再び鏡花水月を解放しようとするもアウラが強大な霊圧量で始解を抑え込み、時灘の隙を突いた銀城が月牙天衝を放つものの、それを瓠丸の蓄積したダメージの放出でいなしたかと思えば、意識していなかった檜佐木の風死が時灘の腕を斬魄刀事斬り落とすのでした。

アウラによって鏡花水月の更新はできないものの檜佐木や京楽達にかけた完全催眠は解除していないと疑心に耽る時灘ですが、その理由は平子の逆撫によって時灘が檜佐木にかけた完全催眠の方向を逆さまに誤認させられていたと判明し、この戦場に於いて檜佐木だけが完全催眠下に落ちていなかったと解説されるのです。

そして、時灘は視界や聴覚が逆転した感覚からすぐさま平子の仕業だと気づき目を向けるものの、その視線の行先も逆撫の術中であることを理解しすぐに斬魄刀を拾おうとしますが、京楽がすかさずお狂に艶羅鏡典を隠させます。

艶羅鏡典を失った時灘が京楽に対し何かを発言しようとした瞬間、「余所見たぁ、随分と舐められたもんだな」と銀城が再び斬りかかってくるのですが、時灘はその声に振り返りながらもそれすら逆転した現象だと思い出し、気づいた時には銀城の月牙天衝が時灘の身体を斬り裂くのです。

しかし、確実な致命傷を負った時灘は鏡花水月を破られた連携に高笑いした後、左腕の裾からかつて藍染と市丸が逃走する際に用いた特殊兵装の布を射出してその場から逃走します。

綱彌代時灘の最後

空中楼閣へ転移した時灘は、現世の核兵器に等しい砲撃や金色疋殺地蔵に匹敵する毒素をばら撒く霊子砲を内包した城砦兵装を発動させようとしますが、ここで計器を事前に無力化していた浦原喜助が登場します。

時灘は、霊王と言う存在を完全に解放する為に彦禰を造り贄する事の何が悪いのだと浦原に詰め寄りますが、浦原にとって意志を持った魂を贄にして世界を保つことは真っ当には程遠いもので、ユーハバッハの遺骸を楔にしている現状も完璧だとも最良だとも思っていないと語るのです。

それに対して、時灘は浦原が現世で作り上げた花刈ジン太や紬屋雨を、いざとなれば崩玉とあらゆる魂魄を詰め込んで霊王の代わりにするために造り上げた同類だと吐き捨てますが、浦原は時灘の目を節穴だと蔑みます。

そして、浦原は時灘の切り札である彦禰が剣八に勝とうが敗けようが残りの残存勢力を一人で相手取る事ができないと語り、時灘に降伏を差し迫りますが、時灘は未だ笑みを消す事無く、懐から転界結柱を取り出すなりあらゆる浮遊システムを破壊した上で空中楼閣を空座町へ転移させようと目論むのです。

それを阻止すべく、この場で剣八と同等かそれを凌ぐ霊圧量を持つアウラが自身の肉体の損傷を顧みず彦禰を守る為に空中楼閣の落下を食い止めるのですが、時灘は死ぬ間際まで愉快な見世物の役者となってくれたアウラを嘲笑い、彦禰にアウラの殺害を最優先事項として指示します。

そして、自身は小型の転界結柱を使い尸魂界にある綱彌代家の奥座敷に逃げ込むのでした。

綱彌代時灘の死亡シーン

綱彌代家の当主室に赴いた時灘は、幾重にも張られた結界に守られた屋敷内に居ながらも寒気を覚えますが、それが隊長格相当の死神ならば或いは結界を通り抜けることが可能であると考え至り、斬魄刀を失い失血が激しい状態で隊長格を相手取って生き残れる確率の低さを見積もって尚も不敵に笑うのです。

時灘が声を掛けた相手は涅マユリだとわかり、マユリは綱彌代家が行っていた「霊王を創る」という実験に興味があると語り、時灘の質問に対しては半ばあしらうように答え、時灘には興味を示さないように資料へ目を通していきます。

しかし、マユリは綱彌代家の資料を所詮は素人の付け焼刃と一蹴し、最初から私に計画を委ねていれば霊王の器の完成度は飛躍的に向上していたと零すのです。

また、霊王の器の完成度を高める為に一番邪魔なのは綱彌代時灘という存在だとも話し、マユリは自身に一任された暁には道楽のためだけに口出しされることがないよう時灘を真っ先に排除すると突きつけます。

時灘は、道楽以外に霊王を創る意味合いなどないと前置きすると、四大貴族の罪人達の末裔が惨めたらしく利益の取り合いをする世界に大義など必要ないと一喝し、愉悦と欲望によってこの世界は回り朽ちるべきだと持論を述べるのです。

そして、マユリに手を結ぶかこの場で殺し合うか、はたまた瓶詰にして研究材料にするのかと選択肢を問いますが、マユリは謗ることもなく「君の研究の観察をしに来ただけだヨ」とつらづらと語った後、屋敷の結界に侵入した際に鍵を掛けなおさなかった事を謝罪します。

鍵の施錠についての謝罪に時灘は一瞬意味が分からず眉を顰めるものの、次瞬、時灘の背中に衝撃が走ると、腹部から貫通した刃が見える事を視認し、やがて自身が背後から刺された事を理解しました。

振り返ればまだ幼さの残る目をした黒装束の少女の姿があり、その格好が過去に自分が綱彌代家の者達を殺害した罪を押し付ける為、自作自演に利用し処分した暗殺一族の物と同じだと悟るのです。

この時、時灘は自身を暗殺する旨の依頼を果たしにきたのかと思い至りましたが、少女から飛び出した言葉は親の仇だという予想だにしないもので、家族の情など凡そ持ち合わせなかった時灘は暗殺者が真っ先に斬り捨てるべき邪魔なものを持ち合わせている幼い暗殺者を前に、「そんなものの為に、私を斬ったのか」と疑問を口にするのでした。

そして、さして興味の無いマユリは資料の頁を捲り、その傍らで少女は激昂しながら時灘の背に何度も刃を突き立てるのです。

どれほどの時間が経過したのかわかりませんが、時灘は「それで終わりか?」と未だ佇み、幾度となく時灘を貫いた浅打を手にした少女はその場でへたり込むと、時灘は前屈みになりつつあった体を静かに起こし、この場にいるマユリや少女を嗤い始めます。

時灘はすぐに訪れるであろう自身の死を嗤い、長い時間をかけてそこら中に恨みを仕込んだ末、東仙や京楽達に殺されるでもなく、取るに足らない雑魚の仇討ちとして死する事をただ嘲笑い、尸魂界の業を正しく引き継いだ自身の最期を嘲笑するのです。

京楽を始めとする綱彌代家の歴史に苦しめられた死神達へ「ざまあ見ろ」と高らかに血反吐を撒き散らしながら「お前達はここにいる名も知れぬ小娘にすら勝てなかったわけだ」と嗤い、これで時灘を永遠に罰する事ができないと憐れんだかと思えば、東仙にはこれまでした仕打ちを微塵も後悔しないまま死んでいく事を語った上で檜佐木やアウラそして銀城達をも嘲るのでした。

そして、喋る事もままならなくなった状態で「貴様が信じようとした男は何も変わらないまま死ぬぞ」という言葉を浮竹へ遺し、最後にはこれまで以上の血を吐きながら「どうだ歌匡、私は星を……」と一瞬だけ穏やかな目になったかと思えば自らの救いすらも振り払うように醜い笑みへと口許を歪めたまま膝を崩し壁に寄り掛かるように事切れるのです。

時灘の死を以て、マユリは尸魂界の宿業を斬るにはたかだか少女の仇討ちで充分だったと零しており、また、時灘の死は四大貴族筆頭としてはあまりに無様で、それでいて最期まで己の魂を貫いたとも綴られています。

そして、無間にいる藍染は尸魂界から一つの魂が消滅したことを確信し、かつて腹心だった東仙との約定を静かに思い出すのでした。

綱彌代時灘の斬魄刀「九天鏡谷(くてんきょうこつ)」

  • 解号は「奉れ九天鏡谷」

千年血戦編で登場した伊勢七緒の斬魄刀「八鏡剣」と同じく、代々綱彌代家に伝わる斬魄刀であり、主に相手が放つ鬼道などの攻撃を撥ね返すことができる能力で、本作では時灘を狙う暗殺集団との戦いで鬼道系の攻撃を反射させていました。

ですが、その正体は時灘が真の能力を隠すための嘘と京楽への当てつけで似たような名前に拵えただけの偽りの名前と能力だったと判明するのです。

因みに、死神時代の斬魄刀もあるようですが、死神を辞職した際に返納したらしく、時灘自身の斬魄刀の能力等は一切明かされておりません。

綱彌代時灘の斬魄刀の真名「艶羅鏡典(えんらきょうてん)」

  • 解号は「四海啜りて天涯纏い、万象等しく写し削らん、艶羅鏡典」
  • 使用した斬魄刀の始解一覧:侘助、瓠丸、千本桜、土鯰、灰猫、流刃若火、餓樂廻廊、金沙羅、鏡花水月、神槍、氷輪丸、天譴、清虫、斬月、瑠璃色孔雀

綱彌代家に代々伝わる最古の斬魄刀の一つであり、始解状態になると刀身が消え失せ鍔と柄の形状だけ残し、その真髄は他の斬魄刀の始解の能力を自在に行使できるといった、これまでに登場した斬魄刀を凌駕する屈指のチート性能を持ちます。

作中では、最も厄介な藍染の「鏡花水月」を起点とした「千本桜」や「流刃若火」で相手を牽制しつつ、「餓樂廻廊」や「斬月」といった殺傷能力の高い攻撃を挟む事で敵を確実に瀕死に追い込む戦法で、自身の傷の修復には山田花太郎の「瓠丸」を使った治癒を施していました。

艶羅鏡典のデメリット

厄介な能力ではありますが、弱点としては時灘の実力や霊圧量によって行使する性能は上下するので、藍染よりは完全ではない完全催眠や元柳斎に劣る火力など粗が目立つ事と、行使する際には能力の併用に割く霊圧量も調整しないといけないので扱いが難しい等の問題点が挙げられます。

また、最大のデメリットとしては使用者の魂魄を消耗することにあり、消耗した魂魄は二度と元に戻らないことから歴代の綱彌代家の祖は艶羅鏡典の使用を避けてきたのですが、時灘は自らの遊びに命を懸ける事もやぶさかではない性分なので、作中では魂魄を惜しみなく差し出し一人で多くの隊長格を手玉に取るのです。

産絹彦禰の人物像と伏線回収

  • 名前:産絹彦禰(うぶぎぬひこね)
  • 性別:不明
  • 容姿:少年とも少女とも認識できる容姿
  • 年齢:不明
  • 所属:綱彌代時灘の従僕
  • 斬魄刀:已己巳己巴(いこみきどもえ)
  • 声優:村瀬歩

少年とも少女ともとれる中性的な子供の容姿と純粋故に天真爛漫な性格から敵味方関係なく目を引く存在で、嘘や隠し事が苦手なことから時灘の秘匿する情報をあっさりと暴露するといった天然ぶりが描かれたキャラクターです。

産絹彦禰の正体とグレミィの関係

産絹彦禰の正体は、時灘が収集した死神や滅却師果ては現世の産子などの魂魄を一つに練り上げたモノに演算処理としてグレミィの脳を搭載したもので、霊王護神大戦の戦場で回収した山ほどもある死神と滅却師の死体や現世から持ってこさせた人間や完現術者の死体を足りない部品として使用された人造人間のような存在です。

彦禰が肉体を持ち合わせた過程には、時灘が用意した材料から道羽根アウラによって自発的に鎖結と魄睡が機能する段階まで創造させ、後はどんな状態でも生かし続けられる山田清之介により人型に完成したという背景があります。

グレミィの脳を保有している彦禰ですが、その精神や潜在意識にグレミィとしての片鱗等は一切ない事から、完全に彦禰としての自我を確立させているのでしょう。

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BLEACHの表紙

産絹彦禰の能力

次代の霊王としてあらゆる魂魄から造り上げられた彦禰は、黒崎一護のように様々な因子を持つ特殊な霊圧を宿していることから、滅却師の血装や破面の鋼皮と同等の外皮を持ち、瞬歩や響転そして飛廉脚を最大限活かした独自の歩法を習得しています。

生まれながらにして最終章の一護に似通った霊圧を有しているためか、子供ながらにして隊長格に匹敵した強さを持ち、作中では段階を上げるようにその強さは飛躍的に成長を遂げ、ほんの一呼吸の間だけ虚化のように腕を歪な形へ変貌させるなどし、最終的には眼帯を外した剣八と同等に近い実力を見せました。

また、終盤では動血装の力で虚閃を凝縮した矢を放つといった、滅却師の技術で虚の霊子を撃ち出す攻撃を繰り出しています。

しかしながら、作中で彦禰の全力は不完全燃焼で終わった為、それが臨界点なのか、はたまたまだ成長の見込みはあるのかというのは明らかではありません。

産絹彦禰と霊王の器について

初代霊王が死神や完現術そして滅却師の力を有していたと明かされた事で、世界の楔の贄とされる存在は霊王のように様々な力と莫大な霊力を有した者でなければならないのか、作中では霊王の代わりとなる存在は霊王大内裏に祀られたユーハバッハを筆頭に、初代霊王と動揺に複数の因子を内包する黒崎一護、そして可能性として一護と同じ資質を持つ銀城空吾だけだと判明しました。

そして、霊王というシステムを破壊すべく時灘が造り出したのが産絹彦禰なのです。

一護ではユーハバッハに勝てないと発言した真相

原作68巻で兵主部一兵衛が「一護たちではユーハバッハに勝てない」と発言した理由として、霊王の意志による影響と世界の楔の崩壊及び零番隊の存在が関係しているのではと考えられます。

霊王が滅却師の源流であるためユーハバッハに意志が傾きやすい事や、万が一ユーハバッハを倒せたとしても世界の楔を維持するために零番隊の手で一護を斬り次代の霊王として奉らなければなからかった、などの事情が小説版で判明しました。

しかし、本編でユーハバッハが完全に霊王の力を取り込んだことで一護がユーハバッハを倒したにもかかわらず、霊王の力を取り込んだユーハバッハの遺骸をそのまま次代の霊王として兵主部が名を刻む事で崩壊は食い止められたのです。

また、自らの血肉を王鍵と化している背景として、零番隊は離殿を巡る霊脈と霊圧が融合しているため零番離殿が全て滅ばない限り兵主部が名を呼べば歩ける程度に復活するそうで、一護がユーハバッハを討ち取らなければ真世界城として塗り替えられた事で零番隊の霊力の残滓も徐々に消滅していき、兵主部以外は全滅していたという可能性も浮上しています。

産絹彦禰の目的

彦禰には思想や信念さらに行動理念といった目的が無く、強いてあげるなら心酔する時灘の目的に迎合して自ら下僕と称し活動しています。

そのため、時灘に用意された霊王の器の席、即ち新たな贄に利用されても三界の王になるただ一つの目的の下に行動し、尸魂界や虚圏に牙を向け、本作で最も厄介な敵として君臨するのです。

しかし、その反面で純粋すぎるが故に優しくしてもらった檜佐木などを極力巻き込みたくない意志が芽生えたり、戦ってくれた相手への礼儀などを尽くすといった丁寧且つ不器用な側面を見せています。

ですが、やはり第一義として時灘の命令が最優先であるため、時灘が殺せと命令を下せば檜佐木であろうと殺しますし、時灘が自害しろと言えば躊躇なく自決するとも明言していました。

それもこれも、時灘による育成や洗脳による影響と、時灘意外の世界を知らない環境下で育った事に起因しており、そのため檜佐木は彦禰に外の世界について教える為に止める事を選択するのです。

産絹彦禰が辿った結末

まだ子供であるにも関わらず、彦禰は已己巳己巴の調教や自身の成長の為に虚圏や尸魂界で強敵である滅却師や破面と戦ってきました。

そして、叫谷にて時灘の敵となる死神勢力を迎撃するため已己巳己巴を解き放ち、自らは剣八と対決するのです。

この時点で彦禰は眼帯を外した剣八と対等に斬り結ぶほどその実力は拮抗しており、剣八自身もこの中で一番強い敵として彦禰の事を認識し、二人の戦いは誰にも邪魔できないほど熾烈な戦いを極めていました。

その渦中、他の勢力が已己巳己巴を弱らせたのを察知した彦禰は、剣八との戦いに少し猶予を置いて欲しいと頼んだ後、弱った已己巳己巴の下へ向かいその力を屈服させ帰刃するのです。

その後、他の勢力を無視し再び剣八と斬り結ぶのですが、時灘が深手を負って撤退し空中楼閣を落下させると、時灘は裏切りの代償としてアウラの始末を彦禰に命令し、彦禰は剣八との戦いを中断させ空中楼閣の落下を阻止しようと使役に集中するアウラの背後へと移動します。

しかし、即座に檜佐木がアウラと彦禰の間に割り込み、アウラを守る為に彦禰と対話を試みるも、彦禰は時灘の命令に服従する意志のほうが強く檜佐木の説得は効果がありませんでした。

そこに戦いを中断された剣八が割り込み再び彦禰と激戦を再開させますが、彦禰は剣八との戦いの愉しさを引きずりつつも早急にアウラとこの場の全員を殺さなければならないと言い、更に霊圧を上げ全力を解放しようとするのです。

彦禰が全力を出そうとした時、檜佐木が戦いの場に躍り出て、あの剣八を前に「こいつは……俺がやります。更木隊長は手を出さないでください」と剣八から彦禰を奪い取ったので、その場の誰もが剣八の戦いに水を差し尚且つ最良の敵を奪う行為によって檜佐木は殺されると思いました。

ですが、檜佐木は彦禰の事をこの場にいる誰よりも弱いと評し、「剣八」の名に於いて弱者をいたぶるのは似合わないと諫めたことで、剣八は数瞬の思考を挟んだ末に「剣八」の名前を引き合いを出されたからには弱い奴をいたぶる事ができないと零し、彦禰の相手を檜佐木に譲るのです。

檜佐木は剣八だと彦禰を殺してしまうと危惧しており、檜佐木はあくまで彦禰を止めに来た立場であると彦禰に告げ、風死の鎖で拘束するものの、膂力だけであっさり鎖を断たれ檜佐木は呆気なく腹部を両断されるのでした

彦禰はすぐさまアウラの始末に向かおうとしますが、檜佐木は何ともない状態のまま復活しており、彦禰は困惑を抱きながら再び檜佐木を殺害するものの、その手応えの有り様に反して檜佐木は尚も五体満足で復活し続けるのです。

動揺を隠せない彦禰を前に檜佐木は自身の卍解と能力の説明を行い、今二人は霊圧と命を鎖で繋いで共有している事を知らされ、互いの霊圧か命が尽きるまでこの殺し合いは終わらないと告げられますが、彦禰は檜佐木が解除するまで痛め続けるといった手段を取ります。

ただ、彦禰は無抵抗の檜佐木を痛めつける一打一打に戸惑いを覚え謝罪を口走っており、その心情を読み取った檜佐木にその感情について指摘され、彦禰は知らず知らずに無抵抗の人間を痛めつける事が悪い事だと学習していたと悟り、それが時灘がいない今、彦禰自身が判断しなければならない事だと思い知るのです。

これまで全ての行動は時灘の命令且つ判断に従っていたと話す彦禰は、無抵抗の人間を痛め続けるのも時灘のせいにするのかという檜佐木の言葉に否定的になるものの、彦禰は時灘の判断がなければどうしたらいいのか分からない心理状態に陥り、そんな彦禰を見兼ねた檜佐木は「なんでもかんでも人に聞くなよ」と世界の厳しさを教えます。

そして、檜佐木は彦禰の事を「悪人ではなく、時灘の言いなりになる人形でもない、魂に従って自分の足で歩ける奴」だと評し、無抵抗を止めて実践を踏まえることで、かつて東仙が檜佐木に教えてくれた事を彦禰に叩きこむのです。

時灘の為に強くなったと豪語する彦禰ですが動揺のせいか何度も致命傷となる一打を受け、その都度檜佐木は寸止めして「今のは死んでたぜ」と彦禰の隙を教え、彦禰が今まで持ち得なかった「恐怖」を覚え込ませます

彦禰は泣き声に近い絶叫を上げながらも檜佐木を殺し続けるものの、檜佐木が凡そ100を超える死を体験する間に彦禰は何度も自身の急所に風死の刃を寸止めで突き立てられる恐怖を味わい、やがて膨大な霊力が底を尽き掛けて膝をつくのでした。

意識を失いかけている彦禰を見下ろす檜佐木は、この世界が優しくできておらず生きてるだけでおっかない事を改めて説明し、だからこそ周りに優しくしてあげる事を教えるのです。

こうして、剣八と並ぶほど強大な力を持った彦禰は、世界が時灘が教えてくれた事以外で溢れている事を知り、檜佐木によって無力化されたのでした。

【完結済み】BLEACH
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黒崎一護・15歳・ユウレイの見える男。その特異な体質のわりに安穏とした日々を送っていた一護だが、突如、自らを死神と名乗る少女と遭遇、「虚」と呼ばれる悪霊に襲われる。次々と倒れる家族を前に一護は!?

産絹彦禰の最後

檜佐木が卍解を解除した瞬間、彦禰の斬魄刀が光ったかと思えば已己巳己巴が彦禰に襲い掛かり捕食しようとしますが、即座にアウラが彦禰を庇い立て已己巳己巴を退ける事で難を逃れるものの、彦禰は霊王の欠片の一部を已己巳己巴に捕食されてしまったのです。

そして、霊王の一部を得た已己巳己巴が禍々しい霊圧を凝集させ、かつて兵主部に名を変えられ思い出せなかった真名を発しようした刹那、始解を終えた剣八が鬼神の如き一撃を振り下ろし呆気なく倒すのでした。

已己巳己巴の脅威が去った後、七緒はアウラの負傷を回道で治そうと駆け寄りますが、治療を彦禰にしてやってほしいと頼まれ彦禰の治療にあたり、彦禰はおぼろげな意識の中でアウラの名を呼びます。

しかし、浦原が空中楼閣の下部に黒腔の亀裂を展開させ、アウラが再び周辺の魂魄を使役して空中楼閣を持ち運び、自ら空中楼閣と共に黒腔へ転移しようと試みている事を知ります。

そんなアウラを彦禰は弱々しい声で呼び止めるものの、アウラは慈愛に満ちた微笑みを向けたまま短い別れの言葉を残して空中楼閣ごと黒腔へと転移し、程なくして空中楼閣が現世に転移して崩壊するといった最悪のケースは排除されるのでした。

アウラが居なくなった叫谷にて、彦禰は未だ時灘から受けた役目を果たせなかった事や時灘のためにアウラを殺そうとした事を正しいと思ってると話した上で、なぜアウラが自分を助けてくれたのか迷いの帯びた目を揺らしながら檜佐木に語ります。

それに対し檜佐木はアウラがそうしたかったからだと話し、彦禰がアウラは自分の母親のようなものだと聞いていると綴ったことで、尚更アウラのとった行動に理由がないと彦禰に教えるのです。

已己巳己巴に魂魄を食われた影響なのか彦禰は憔悴しきっているものの、「いつかアウラさんの事を母様と呼べますか……?」と初めて時灘の意志とは関係なく自分の心に従った言葉を述べ、同時にその資格があるのかと消え入る表情で疑問を零します。

そんな彦禰に檜佐木は肩を竦めて「ガキがお袋に甘えんのに理由も資格もいらねえよ」と本作最大の道理を教えるのでした。

産絹彦禰の後日談

真央施薬院の山田清之介の力で一命を取り留めた彦禰は、本編最終回の1年前、つまり本小説内から9年後、流魂街西六十地区「錆面」と呼ばれる山間の村落で暮らしていました。

この村落は霊王護神大戦時の最中、三界の魂魄のバランスを調整する為の緊急措置として十二番隊による住民の抹消が行われた地区であり、住民が全て消えた集落という曰くのせいで誰も近寄らない廃村と化した場所です。

施薬院での治療を受けた後、檜佐木は彦禰を霊術院に入れて死神の道を辿らせる事も視野にいれましたが一度敵対した存在という事がネックであるため、周囲が彦禰を受け入れるにはあまりに時間が短すぎると判断し、一人で生きていけるようにと自ら瀞霊廷を出立し人の居ない流魂街の片隅で暮らすといった彦禰の意志を尊重しました。

時灘の事は今でも恨む事も嫌う事は出来ないとし、彦禰に生きる理由を与えてくれたのは確かに時灘だったと語る反面、瀞霊廷を出るまでの間に出会った檜佐木を始めとする京楽や清之介に花太郎といった多くの死神に様々な事を教えてもらった事にも感謝を示しています。

それらを踏まえて彦禰は無邪気な笑顔に確かな不安と怖れを抱いているものの、それが生きることだと檜佐木に教えてもらったと彦禰は語るのです。

そして、檜佐木が何かやりたいことが見つかったかと問うと、彦禰はもっと強くなりたいと話した上で、彦禰は母親であるアウラを探しに行きたいとハッキリと自分の意志を檜佐木に示します。

空中楼閣を転移させた後、アウラの生死は彦禰に分からず、檜佐木自身も尸魂界にアウラの魂魄が辿りついたという話も聞いていないことから、その生死の所在に複雑な面持ちになるものの、こうして生きる理由を見つけた彦禰を見て、彦禰の将来が明るい物であると信じ、その時は手助けする事を約束するのでした。

産絹彦禰の斬魄刀「已己巳己巴(いこみきどもえ)」

元は二枚屋王悦が治める鳳凰殿の地下の更に奥深くにある零番離殿に広がる海の底に存在する刀櫓の中に眠っていた斬魄刀であり、千年血戦の最中に時灘の指示でアウラが盗み出し、霊王護神大戦後その盗難が発覚しました。

刀の特徴は、刃にしては異常に白く、輝いているというよりは光そのものを白く塗り潰した不気味な色合いで、純白の袖白雪と違い禍々しい漆黒の模様を混じらせた根源的な恐怖や懐かしさを抱かせる印象を持たせます。

そして、その斬魄刀の正体はかつてバラガンと肩を並べた破面の成れの果てであり、戦う度に成長するその異形の斬魄刀を時灘は彦禰に与え、作中で彦禰は登場する度に解号と已己巳己巴の形態を変えるのです。

  • 解号「星を巡れ已己巳己巴」

刀身が虚の腕のように変貌し敵を攻撃し、彦禰の意志とは別に独立した動きをしたり、彦禰の窮地には自ら黒腔を展開させて避難させるなど行います。

作中では、虚圏で初披露し、帰刃した破面(グリムジョー、ハリベル、ルドボーンなど)と滅却師(リルトットやジゼルなど)を相手に一人で拮抗した戦いを見せたものの、流石に分が悪かったのか重傷を負って敗走しました。

  • 解号「葬送り記せ已己巳己巴」

流魂街での戦いで披露した已己巳己巴の二段階目の形態で、尺度で例えるならば帰刃したヤミーやフーラーという大虚の集合体など規格外の存在と類似し、強さを例えるならば人型の最上大虚並の霊圧密度を保ったまま規格外の巨体を有していると評されています。

因みに、リルトットの言葉を借りるなら狛村左陣の黒縄天譴明王よりも巨大だそうです。

その巨体から繰り出される攻撃は何れも災害レベルの惨事であり、見た目として中級大虚レベルの虚を無数に生み出す事が可能な為、平子からは「足生やした一個の国」と評され正攻法では相手をするものではないと煙たがれました。

この時点で上述で触れた解号時の実力より数段強さが増しており、破面や滅却師に完現術者などを相手に圧倒しています。

  • 解号「孵り亡べ已己巳己巴」

彦禰曰く漸く育った事で可能となった已己巳己巴の三段階目の始解で、解号と同時に刀身が膨張し前回より小さくなったものの家屋ほどの一つの生物を象る異形として、已己巳己巴が完全に自立して大地に立つのです。

霊圧は更に凝縮され、その強さは彦禰と釣り合いがとれたように感じ取れるほどであり、力の無い死神ならばその前に立つことすら許されない圧倒的な空気を身に纏う世界に終末を齎す獣を想起させる白い異形と表現されています。

霊圧を溜める事でフーラーのような単眼から莫大な霊子の解放を伴う全方位への虚閃を放つことができ、その威力は虚閃を凌駕するもはや自身を中心とした霊子の爆発に類するものでした。

また、已己巳己巴はその巨体のまま響転を使用でき、ただの移動でさえ巨大な質量の衝突が大打撃となる単純で実用的な攻撃をしてきます。

産絹彦禰の帰刃「已己巳己巴・鳳落八景(ほうらくはっけい)」

  • 解号「已己巳己巴・鳳落八景」

已己巳己巴を完全に屈服させた後、彦禰が解号を合図に已己巳己巴の巨体が光り輝くと黒と白の入り混じった陰陽の風が彦禰を包み込み、虚と死神が融合したような死覇装を纏った破面のような姿へ変貌し、皮膚の中に虚らしき霊子の影が蠢きます。

そして、已己巳己巴は元の斬魄刀の形状に戻り刀身には斑模様が刻まれ、彦禰の霊圧は完全に上の段階へと進化を遂げるのです。

しかし、作中ではその真価の程は彦禰の戦闘自体が描かれなかった為、どれほど凄まじいものだったのかは明確には記されていませんでした。

已己巳己巴とバラガンの関係

斬魄刀だと言うのに意志があり、また戦闘を経て成長するといった異質な性能を持つ已己巳己巴ですが、その正体は太古の昔に存在し猛威を振るっていた大虚であり、全ての進化が混沌の中にあった虚達の黎明期に存在した中級大虚の一角で、それよりも永く存在していたバラガンと虚圏で覇権争いをする強者でした。

アーロニーロが持つ「喰虚」に似た能力で進化はできないものの無限の成長を続けていた已己巳己巴と、老いという滅びの力を持つバラガンとの相性は最悪なもので、互いに干渉し合わない事を暗黙の了解としていたのです。

しかし、欲望のまま全てを喰らい続け、果ては虚圏を飛び出し尸魂界にまで手を伸ばした事で、まだ若い頃の元柳斎重國達死神との戦いの果てに霊王を捕食しようと霊王宮に昇ったところ、兵主部と王悦に倒されます。

兵主部の能力によって名前を奪われ「已己巳己巴」と新名をつけられると、その特異性と霊圧故に滅する事が叶わないとされ、次に王悦によって斬魄刀として打ち直されると、そのまま鳳凰殿の地下深くに封印されていました。

ところが、千年血戦編で霊王宮に見えざる帝国が侵攻した動乱の真っ只中を狙い、王悦の鳳凰殿から時灘がアウラに指示を送り已己巳己巴を盗み出したのです。

補足として、已己巳己巴の本名が語られる事はありませんでした。

道羽根アウラの人物像と伏線回収

  • 名前:道羽根アウラ(みちばねあうら)
  • 性別:女
  • 年齢:不明
  • 所属:宗教法人「XCUTION」の代表、綱彌代時灘の手駒、完現術者
  • 能力:完現術(霊子の使役)
  • 声優:笹本菜津枝

かつて銀城が完現術者と創設したXCUTIONの名をそのまま借りて宗教法人「XCUTION」を創立し代表を務める妖麗な女性で、綱彌代時灘の手駒として活動を続けていました。

年齢は不明ですが、かつて死神代行として活動していた銀城とアウラの父親が接触していた事から、少なくとも銀城よりは幾らか年下である事が判明しています。

また、人目を引く容姿の良さから機械的な笑みでさえ檜佐木を簡単に誘惑したりと、設定的にBLEACH界でも上位の可愛さを確約されていることで多くの男性読者を魅了したことでしょう。

道羽根アウラの能力

アウラは父親が完現術者であるため二代続けての珍しい完現術者として生誕し、父親に完現術の使い方を教わった事で、完現術者の基本となる霊子の使役を使いこなす事ができます。

しかし、過酷な幼少時代を過ごした結果、全てを失ったアウラは完現術者が固有能力を発現させるために必須な身の回りの物への愛着という部分が欠落しており、完現術は霊子の使役のみしか使えないです。

ただし、アウラの中には霊王の鎖結が回帰しているため、ただの霊子の使役による攻撃は作中トップの性能を有しており、霊圧や質量に拡散する範囲そして汎用性と全てに於いて優位性が高く、人間でありながら隊長格を凌駕する霊圧を有しています。

アウラは完現術者の基本的能力を極限まで極めており、物質に宿る霊子を支配する事で、

  • 自分の体の細胞を脳細胞や血球の単位で支配して煙のようにあらゆる攻撃もすり抜ける
  • 霊子の使役によって生み出された赤黒い文字や紋様の集合体の血煙による触手のような攻撃手段
  • 血煙の触手で形作られた巨大な龍での攻撃
  • 霊子の使役で空座町の上空に尋常ならざる範囲の海を再構築し操る

など、物理法則を無視した規模の行使が可能であり、何れも浦原が始解した紅姫の技や九十番台の鬼道で対抗するほど強力なものでした。

また、アウラの霊圧は時灘の鏡花水月の始解を抑え込むほど強大なもので、作中では時灘を遥かに凌ぐ霊圧の持ち主はアウラを除いて剣八か彦禰くらいと綴られているものの、果たしてアウラの霊力が藍染に匹敵するのかは定かではありません。

因みに、浦原の見解ではアウラの力量を死神で喩えるならば「斬魄刀を使えない代わりに鬼道と白打の腕前が藍染惣右介レベル」とのことです。

しかし、堅塁を誇るアウラの能力にも弱点があり、いくら自身の体を煙のように変化させようともそれを繋ぎ止める霊力は存在し続けているので、鬼道系の攻撃が覿面に効果があります。

作中でも、浦原が冬獅郎の斬魄刀がアウラと相性が良いと推測していたり、実際に時灘は相手の霊力を吸い取る瑠璃色孔雀で対策を講じていました。

【BLEACH】 Can’t Fear Your Own World
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霊王護神大戦は終結した。しかし世界には、未だ戦いの火種がくすぶり続けている。四大貴族の一角・綱彌代家の新当主・時灘による“霊王”を巡る目論みを震源として、三界にわたる新たな闘争が始まろうとしていた。その戦いの鍵を握るのは、九番隊副隊長・檜佐木修兵。死神の矜持を持って彼は征く……!!

完現術者と霊王の関係についての伏線回収

完現術者は母親が虚に襲われたという本人たちの意志を無視した理不尽な事実からその力を宿す事となり、世界から自分を浮き上がらせる元凶及び自分を世界に繋ぎ止める鎖ともいえる身の回りの物への愛着が固有能力の発現に影響を与えます。

そして本作で、完現術者の能力の因子が霊王の欠片の一部が回帰したもので、その影響力から虚が集められていたと発覚し、完現術者は霊王と密接的な関係にあったのです。

更に、その事実を現世を管轄する尸魂界が知らない筈もなく、綱彌代家の支配下にある映像庁に完現術者を観測させていたという事実も明かされ、中には綱彌代時灘が深く関係しているケースもありました。

本編で登場した井上織姫や茶渡泰虎の完現術の発現は、黒崎一護やルキアの中にある崩玉の影響を過分に受けていた為に特殊な事例ともいえますが、何れも霊王の欠片の因子を受け継いでいたことは銀城達他の完現術者と一致しています。

道羽根アウラの生い立ち

世にも珍しい二代続けての完現術者として生を受けたアウラは、虚の襲撃で深手を負った母が出産後に死亡した事で、父親と二人で暮らしていました。

父親は自分が完現術者である事とその血が混じっている事が虚の引き付けの理由だと結論を出し、アウラが生まれた以後もその力を消す方法を求め続け、父親はアウラが10歳の時に銀城空吾と名乗る死神代行と出会うのです。

銀城は完現術の力を吸収してくれると話し、父親は銀城を信用して先ずは自分の完現術を消してもらった後に問題が無ければアウラの完現術も消してもらえるよう頼んでみると語り、これからはアウラが普通に生きられる事を喜びます。

しかし、この時のアウラの心境は父親とは真逆であり、完現術の力は父親が教えてくれた根源でどうして消したり人にあげなければならないのか不思議でなりません。

アウラの父親は妻の死から壊れてしまったのか、完現術の力を嫌い、人間社会から爪弾きにされないよう幼いアウラを屋敷の地下に監禁して生活させており、かといって暴力や育児放棄をするでもなく愛情をもって世話を行い、ただ完現術の力を消し去るまでは娘を護らなければという意志からくる行動でした。

そのせいで、アウラの知る世界はテレビも本の一冊もなく外に広がりがあることさえ分からない水槽のような部屋だけであり、色も自由も時の流れも把握できない小さな世界だったのですが、唯一感情を起伏させるのが父親の手料理だったのです。

そして、そんな小さな世界で銀城に会いに出かけた父親の帰りを待つアウラでしたが、父親は二度と帰ってきませんでした。

父親の蒸発は知識の乏しいアウラでも何か不足の異常が起きたと理解できるもので、凡そ人間が味わう苦痛の中でとりわけ苦しい飢餓を体験し、初めて味わう苦しみはアウラの未成熟な心を壊すには充分だったのです。

飢餓感が限界に達した時、アウラは父親の修行の賜物か、完現術の基本である霊子の使役で部屋の強化硝子を砂に変え、地下から初めて外の世界へと踏み出します。

扉の鍵を全て破壊したアウラが部屋の外で始めてとった行動は、父親が料理に入れていたキッチンの食材を本能のまま貪ることでしたが腐敗の味によってすぐに吐き出すのです。

そして、本当の意味で外に出たアウラは、通行人によって助けられ警察に保護された後、実家で監禁の形跡が見つかった事で世間で少し騒ぎになるものの時の流れで鎮静化し、やがて世間からアウラという少女は忘れ去られるのでした。

この体験からアウラは物への愛着が皆無であり、唯一愛着を持てた父親と料理もアウラの前から消えた事で完現術者特有の固有能力というものを発現していません

道羽根アウラと綱彌代時灘の出会い

数年後、アウラは社会生活の一部として溶け込んでいましたが、完現術の影響なのか、その美しい容姿にもかかわらず自分という存在を徹底的に消し去り雑草のように過ごしていました。

外の世界を知ったアウラは、当初父親への謗りを受け、自分の父親が世間一般でいう異常者だと気づくものの、今となってはどうでもよく、ただ父親が遺し完現術こそがアウラの全てだったのです。

ある日、アウラは巨大虚を退治した際、アウラの成長に興味を示し下卑た笑いを浮かべる男「綱彌代時灘」が接触してきました。

時灘が自らを死神と名乗った事で、アウラは必然と父親が言っていた死神代行である銀城を思い出し、その名を口にした途端、時灘は大きく笑って見せると今度は名前を名乗った後に「君の父親を殺すように命じた一族の末端さ」と、アウラの父親の身に起きた事を淡々と話すのです。

若干の動揺を隠せずに動機を訊ねるアウラですが、時灘は本来尸魂界の所有物である霊王の因子を受け継ぐ魂魄の回収のためだと説明し、親子二代にわたって観察していたことを暴露した後、泣け叫ぶか父親の敵討ちに出るか、はたまた決闘でもするかと気楽に訊ねてきます。

しかし、アウラが興味がないとあっさり断った事で、時灘はかつて東仙にも同じように試しアウラと正反対の結果を生んだ事を痛快に語り、アウラの力は回収するよりも手駒として使った方が役に立つと話し、手駒としてスカウトするのです。

困惑するアウラでしたが、特に世界に愛着もないことから、世界を新しく塗り替えれば愛着もわくかもしれないという時灘の漠然とした表面上の言葉に訝しむものの、アウラは時灘の誘いを引き受けるのでした。

道羽根アウラと銀城空吾の伏線回収

記事内で触れた通り、アウラの父親は銀城を頼って出かけたまま二度と帰ってこなかったわけですが、その実態は死神代行時代の銀城が死神の襲撃に遭い仲間を全滅させられたという本編の出来事に直結しており、その全滅した銀城の仲間の一人がアウラの父親だったのです。

道羽根アウラの目的

アウラ自身にこれといった目的はなく、特に興味もわかない世界で漠然と生きているだけの中で時灘の誘いを受けたのを契機に、時灘の手駒としてその策略の大部分を一人で担っていました。

そして、新たな霊王の器を創造すべく、時灘が用意した山ほどの魂魄と死体を使って産絹彦禰を産み落としたり、三界を保つ楔の力の手助けとして銀城達完現術者への接触をしたり、叫谷に空中楼閣を築き上げたりと、檜佐木を中心に渦巻く群像劇の敵役として暗躍します。

しかし、何も持ち得なかったアウラに産絹彦禰という存在が新たな目的を持たせるのです。

道羽根アウラの真の目的と産絹彦禰との関係

アウラは登場当初は宗教法人「XCUTION」の代表であることも懸念され、現世で雪緒と接触し、浦原商店に急襲を仕掛け浦原喜助の誘拐を実行するなどと読者にとってその存在は不穏そのものでしたが、全ては時灘の謀略を打破するための布石だったと判明し、アウラの目的は彦禰が霊王に挿げ替えられる未来を回避するための行動だったのです。

アウラは何事にも興味を持てず言われる事を熟すだけで世界の全てに愛着が湧かない欠落者であり、その愛着が持てない世界のシステムの中の歯車としてただ回り続ける日々を送っていました。

しかし、産絹彦禰を造り出す過程で、彦禰が生命の拍動ともいえる霊圧を生み出した瞬間にアウラに母性が芽生え、自分が微笑んでいる事実に気づくのです。

自分の手で生み出した生命に理由の無い愛情を抱いたのと同時に、かつて自分が異端故に閉じ込められていた過去を想起し、同じく常識から外れた彦禰の命を時灘がどのように利用するのかも容易に予想できました。

やがて彦禰は無邪気な顔と声で話すようになり、その姿を幼少時代のアウラ自身と重ねて見えたアウラは「彦禰が自分よりも更に酷い状況に陥り未来永劫苦しむ事になる」と考え、時灘の手から彦禰の未来を救い出そうと決意するのです。

しかし、一方ではかつて自分を閉じ込めた父親のように、アウラは自身のエゴで彦禰に広い世界を教えようとしている事に葛藤を抱いており、このまま時灘に寄り添う事が幸福なのかアウラ自身わからなかったのです。

ただ、広い選択肢を与えて自らの意志で選び取る権利を与え、彦禰が未来を選べるようにしたかったのでしょう。

道羽根アウラが辿った結末

時灘を裏切る準備が整ったアウラは、叫谷にて時灘と死神達が戦う場所へ介入し、ちょうど時灘が檜佐木へ尸魂界の成り立ちと四大貴族の祖が犯した罪の話を聞かせていたのを見て、京楽達の妨害を果たし、檜佐木に霊王という存在について最後まで聞かせる動きを見せました。

藍染がなぜ謀反を起こしたのか、ユーハバッハがなぜ霊王を殺したのか、浦原がなぜ崩玉を創造したのか、そして、それらすべての歴史を知った東仙の心中をつらづらと語る時灘の言葉を敢えて檜佐木に聞かせたアウラは、会話が止み再び戦いが始まるのを皮切りに時灘と共闘して檜佐木達の前に立ちはだかるのです。

檜佐木が享楽達死神や滅却師や破面の面々と協力し時灘の腕を斬り落としたかと思えば、時灘は鏡花水月の幻惑でアウラを時灘に見せかけただけというかつて藍染が死神達にやってみせた雛森を使った手段を模倣させるものの、挿げ替えられたアウラ自身は遍く攻撃が効かない体質なため無論無傷でした。

次瞬、現世にて雪緒を引き込み、雪緒の協力で銀城達を味方に引き入れたアウラは、時灘の御前に銀城達を雪緒に召喚させるのです。

しかし、この時点でアウラの裏切りに気づいていない時灘は念のため銀城達に鏡花水月をかけようとするのですが、鏡花水月の始解が発動しない事に眉を顰めた刹那、その僅かな隙を契機に銀城が完現術を発動させ斬撃を放ち、すかさず時灘も斬月で受けようと刀を上げますが不完全な刀身は銀城の斬撃の前に砕け散り負傷します。

鏡花水月が発動しないその理由は、圧倒的な霊圧で始解への変化そのものを封じ込めるといった、本来の持ち主である藍染以外が使用する事で生まれる弱点を突く意外なもので、この場に於いて圧倒的な霊圧を持ち尚且つ鏡花水月にかかっていないアウラが抑え込んでいたのです。

ですが、時灘はアウラが裏切る事自体は彦禰を産み落とした瞬間に母性に似た感情を抱いた時点で確信しており、対抗策として瑠璃色孔雀の能力でアウラの霊圧を吸い取ります。

しかし、鏡花水月は刀身に触れていれば発動できないため、アウラは瑠璃色孔雀で半分以上霊圧を吸い取り続けられながらも時灘の斬魄刀だけは離しません。

そして、その状況を利用した京楽や平子の助けを受けた檜佐木が時灘の腕を斬り落とし、銀城が深手を負わしますが、時灘はまんまとその場から逃げおおせ叫谷に浮遊する巨大な空中楼閣を落下させ空座町に転移させようと目論むのです。

浮遊システムから乖離した空中楼閣の残骸が叫谷の地上へ降り注ぐ最中、アウラは疲労困憊のまま余力を搾り、巨大な空中楼閣そのものを使役しようとします。

檜佐木は彦禰の為に浦原を攫い裏で銀城達と通じて時灘を裏切ろうとしていた事を知ってることからアウラの体を気遣うものの、時灘は空中楼閣内部から一部始終を監視しており、アウラの始末を彦禰に命令するのです。

時灘の命令を受け、彦禰が剣八との死闘を中断してアウラの下へ降り立ちますが、アウラは彦禰を護る為に時灘に逆らっているのだと檜佐木が間に立ちます。

そして、アウラは檜佐木にどうして自分の為にそこまでするのかを訊ねると、檜佐木は過去の清算や彦禰に外の世界を教えるといった目的の下、「命懸けで彦禰を護ろうとするアンタがいい女だったから助ける」と少しだけユーモアを加えて言い放つのです。

道羽根アウラの最期

檜佐木が卍解を以て彦禰の精神を折り、時灘の呪縛から解放し、霊圧の消耗や精神的疲労から憔悴しきった瞬間、已己巳己巴が彦禰へと襲い掛かった事でアウラは身を挺して彦禰を庇い立て已己巳己巴を退けるものの、自身は腹部を抉り取られる致命傷を負いました。

彦禰の魂魄を僅かに喰らい真名を解放しようとする已己巳己巴を剣八が倒した後、アウラは七緒の回道の処置を彦禰にお願いし、疲労困憊で弱弱しく呼び掛ける彦禰に「彦禰様はゆっくりお休み下さい」とあくまで次代の霊王の部下としての振舞いを見せ立ち上がるもの、脇目に居た七緒からは部下というよりも母親の表情であると読み取れるほどです。

無理をして立ち上がる檜佐木の静止を振り切ると、アウラは自分のやるべきことがあると言い放ち、そこにタイミングを計ったように浦原が空中楼閣の下部に巨大な黒腔の亀裂を出現させ、アウラは周辺の魂魄を使役し黒腔へと向かいます。

しかし、アウラの怪我は生存すら危険な状態であることから、檜佐木は本当に行くのかと再びアウラの心の内を探るように呼び止めるも、アウラは「……初めてこの手で抱きしめる事ができました」と、それだけで充分だと零し、檜佐木は釈然としないままアウラの意志を尊重しました。

そして、別れ際に「檜佐木さんもどうぞお元気で」と言い放つアウラの顔がいつもの機械的な笑顔と違っていた事を檜佐木は読み取るものの、敢えて何も訊ねないでいると彦禰が代わりに呼び止めます。

そんな彦禰に目を向けたアウラは、檜佐木に向けた表情より顕著に心から慈愛に満ちた微笑みを浮かべて彦禰に「どうか、御達者で」と短い別れの言葉を遺し、次に彦禰が何かを告げるよりも早く空中楼閣を連れて黒腔の亀裂へと消えていくのでした。

アウラの最期は現世に落とされる空中楼閣の衝突を防ぐ捨て身の行動であり、同時に漸く心が通じ合った彦禰と対した会話もできないまま消滅するといった何とも切ないものですが、アウラと彦禰に共通する存在である檜佐木を信頼し後の事を託した故の自己犠牲だったと思われます。

道羽根アウラの後日談

空中楼閣と共に黒腔で消滅した筈のアウラは虚圏の柔らかく冷たい砂地の上に倒れている事に気づき、何故虚圏に倒れているのか記憶を遡りますが、黒腔に空中楼閣を叩きこんだ直後の記憶がありませんでした。

アウラは砂地に横たわりながら、今度こそ全てを失いはしたもののやるべきことはやり遂げたと綴り、最期に愛着が生まれたはしたが未練はないと、このまま霊子を垂れ流しここの砂の一部になるのだと覚悟します。

ですが、先刻已己巳己巴から受けた傷口に痛みがない事を不振に思い、まして傷口が塞がっている事に困惑していれば、目を覚ましたアウラに話しかける破面の若い女性の姿が飛び込んできました。

その女性破面が能力を使ってアウラの怪我を血管から神経に至るまで繊細に縫い合わせており、後に女性破面の側に居たネリエルと、アウラが運んだ空中楼閣の残骸に目を向けるハリベルと顔を合わせ、ネリエルが黒腔からアウラを連れてきたと説明します。

「あなたが助けてくれたのですか」というアウラの問いかけにネリエルは気まずい口調で「……半分ね」と零すと、アウラは黒腔内で死を迎えていた事を理解し、現世の人間としては存在しない事を知りました。

魂魄だけの存在のアウラを放置していればそのまま消えてしまいそうだったと理由でネリエルはアウラを助けたと話せば、その姿を見たアウラは先刻已己巳己巴との戦闘で見ていたイメージとは別人のようだと困惑し、そんなアウラにネリエルは料理を振舞うのです。

虚圏の大蜥蜴と虚圏特有の雪草の料理と題された料理は見た事もない色の食材ばかりでしたが、アウラは幼き頃に父親が出してくれた料理を想起させ、想像以上に味わい深い料理に美味しいと感想を漏らすと、ネリエルは笑みを浮かべました。

その後、ネリエルはアウラに今後どうするのか訊ねると、行く宛も目的も魂葬を受ける資格もないと口ずさむアウラに対し、ネリエルはやりたい事がみつかるまで虚圏で休み現世の料理の再現を手伝ってくれないかと頼み込みました。

ネリエルは現世の人間の味覚や調理法を学んでいつか黒崎一護達に食べてもらいたいと語っており、そんな荒唐無稽な目標がアウラの心に「いつの日か檜佐木を始めとする死神達が尸魂界の世界を広げ、やがて彦禰がこの土地にやってくる事があるかもしれない」と考えを抱かせるのです。

そうすれば彦禰がこの料理を食べることがあるかもしれないと思いつつも、許されるのならばアウラから尸魂界に会いに行く勇気が生まれるかもしれないと綴り、自分を後押しするほんのささやかな理由を探し、また彦禰に会えるのではと涙を流すのでした。

ネリエルの従属官であるベッシュやドントチャッカの賑やかな声に楼閣の跡地で遊ぶ破面の子供達の喧噪、そして無愛想に遠くを見据えるグリムジョーやハリベルに囲まれ、アウラはゆっくりと食事を味わいながらネリエルの提案を受諾します。

そして、かつて父親がアウラにしてくれたようにいつか自分の料理を彦禰に食べさせるといった純粋な願いが脳裏に生まれ、アウラは涙を流しながらも気づけば笑っていたのです。

そうしてアウラはネリエル達と交流を続けながら虚圏の片隅で一人静かに暮らす事を決意し、いつの日か彦禰と再会する事を夢見ながら生きていきます。

小説で判明した3名(綱彌代時灘、産絹彦禰、道羽根アウラ)の人物像と伏線についてのまとめ

  • 綱彌代家の祖が霊王を水晶に閉じ込め手足を斬り落とした
  • 綱彌代時灘は歌匡の夫であると同時に東仙の親友・歌匡を殺害した張本人
  • 綱彌代時灘が映像庁を通して本編での成り行きを観測し、同時に完現術者を監視していた
  • 綱彌代時灘が銀城空吾の襲撃を企てた張本人であり、銀城の仲間を殺害し、銀城に冤罪を擦り付け、浮竹に討伐を一任させた黒幕だった
  • 綱彌代時灘は七緒の母を神器喪失の罪で拷問しようとしていたが朽木銀嶺の介入により断念していた

以上のように、四大貴族の筆頭綱彌代家の祖が霊王の力を恐れ独断で水晶へ封じ込めた後手足を斬り落とした事がBLEACHの世界の基盤を作った行為であると同時に、時灘というあらゆる案件に関与した怪物を生み出すきっかけとなったのです。

時灘の嗜虐的な欲望は「ただ見てみたい」の一点に集約されており、自らの道楽の為には命を投げ捨ててでも悪辣を準じると誓いを立てるほど歪んだ性格の持ち主でした。

そして、霊王を新たなに据えるべく産絹彦禰というあらゆる因子を詰め込んだ死神を人為的に創り出し、時灘は、

  • 已己巳己巴を二枚屋王悦の鳳凰殿から盗み出す
  • 死神や滅却師そして完現術者の死体と魂魄、グレミィの脳を使用し産絹彦禰を創造
  • 産絹彦禰を使い三界を支配しようと企む

など、道楽の為に産絹彦禰を使い三界を巻き込んで死神や滅却師は勿論のこと、破面や完現術者など全ての種族を相手取ります。

なぜ時灘一人でここまで暗躍できたのかと言えば、それは霊王の鎖結を有した完現術者・道羽根アウラの存在が一際貢献しており、斬魄刀を使えない代わりに鬼道や白打が藍染レベルと評されるアウラを手駒として時灘は準備を行っていました。

また、道羽根アウラの生い立ちから、

  • 完現術者は少なからず霊王の因子を受け継いでいる人間
  • 完現術者の中でも霊王の鎖結を宿している道羽根アウラは規格外の霊力
  • 銀城空吾が死神に襲撃された際に全滅した仲間の中にアウラの父が居た
  • 銀城空吾は一護と同様に死神と虚と完現術の力を宿している事から霊王の資質を持つ

などの設定が続々と回収されていることから、本編であまり評価の低い神代行消失編が実はBLEACHの設定的に最も重要な回だったことが判明します。

このように小説「BLEACH Can't Fear Your Own World」は全3巻で尸魂界の黎明期からの成り立ちから、現在軸での全ての事柄の伏線や設定を片っ端から回収している作品なので、余すことなく読んでみたいと思った方に強くオススメできる内容です。

また、余談ですが、彦禰とアウラの親子愛を紡ぐ話として読んでみると中々に切ないものであり、いつの日か二人が再会するエピローグを成田良悟先生が執筆して下さらないかと願ってしまいます。

【完結済み】BLEACH
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黒崎一護・15歳・ユウレイの見える男。その特異な体質のわりに安穏とした日々を送っていた一護だが、突如、自らを死神と名乗る少女と遭遇、「虚」と呼ばれる悪霊に襲われる。次々と倒れる家族を前に一護は!?