HUNTER×HUNTERファンの中で最高傑作との呼び声が高いのはキメラアント編ではないでしょうか。
富樫先生が創り出す壮大な世界観や、キメラアントの王メルエムとハンター協会会長ネテロのハイレベルな戦いに興奮させられます。
そしてラストが近づくにつれ明かされる人類の残酷さや、切ない結末は私たちの現実世界とも結びつけられる深い設定となっていました。
そこで今回はHUNTER×HUNTERの中で最も死の描写が印象的な、キメラアント編の凄いと思った所についてご紹介します。
メルエムと命を懸けたネテロの戦い
キメラアント編最大の盛り上がりを見せる2人の戦闘シーン。
蟻の頂点として生まれた王メルエムとハンターのトップに立つネテロの激しいバトルが繰り広げられます。
生物統一を図る最強の王
キメラアントは摂食交配により食べた種の特徴を次世代に反映させることができます。
王の母である女王蟻は人間の栄養価の高さを気に入り、大量の人間を食料として欲していました。
その中には「レアモノ」と呼ばれ念能力を持つ者たちも含まれており、女王に食べられた多くの人間たちの集大成として生まれたのが王のメルエムで、生まれながらに圧倒的な強さと種の頂点としての自覚をもっています。
ネテロは猛攻を繰り広げますが王はほぼダメージを受けません。
また幾度となくコムギと軍儀の対局を経た王は、盤上の戦いを実践にも応用させ、相手を観察し攻め続けることで冷静に勝利への糸口を探るのです。
全身全霊をかけたネテロの百式観音
ネテロの技は「百式観音」、キルアの祖父でありゾルディック家の家長であるゼノでさえも、ネテロの百式観音はやっかいだと語っています。
自身の成長に限界を感じたネテロがたどり着いた先は武道に感謝をすることで、修行として山にこもり感謝を込めた一日一万回の正拳突きを行いました。
修行を終え山を下ったネテロの拳は音よりも早くなっており、そうして武を極めたネテロが生み出した技が「百式観音」です。
巨大な観音様を具現化させ、ネテロの祈りと拳が鏡となって観音様から繰り出されます。
戦闘において祈る動作は無駄に感じられますが、この祈りこそネテロの強さの根源であり、王メルエムがネテロの存在価値を認めざるを得ない理由となりました。
メルエムに訪れた心境の変化
王は当初人間を家畜程度としか認識していませんでした。
しかしコムギとのやりとりを通し、肉体的に強い者以外にも生存価値があると認識し始めます。
そしてコムギに名前を聞かれたものの答えることができなかった王は、自分が何者なのか疑問を持ち始めることになり、人間と虫との間で揺れてしまうのです。
頂点に立つべく生まれた王はキメラアントにとって絶的な存在であり、他者を認めるなどあってはならないのですが、時が経つにつれ一個人としての存在価値を求めると同時に、敵であるネテロに対しても惜しみない賞賛を覚えるなど人間らしい心情が増えていきます。
ネテロの秘策「貧弱の薔薇(ミニチュアローズ)」
ネテロは自分の生涯を懸けて拳を放ち続けたのですが、右足と左腕を奪われ、王に致命的なダメージを与えることは不可能でした。
しかしネテロの心臓停止とともに発動した超小型爆弾「貧者の薔薇」によって形勢逆転となります。
兵器により命を落とした王と護衛軍
王はネテロが使用した兵器「貧者の薔薇」の爆発により一度は瀕死の状態となりますが、復活を遂げます。
しかし後遺症により体内を毒に侵された王だけではなく、王の側にいたプフとユピーにも毒は広がり共に命を落とすことになるのです。
純粋な戦闘の勝ち負けによる死ではなく、被爆による死という私たちが予想しなかった結末が待っていました。
貧者の薔薇(ミニチュアローズ)とは
ネテロが心臓停止を発動条件に仕込んでおり、驚くほどの殺傷能力を持つことから独裁小国家に好まれた超小型爆弾です。
薔薇のように巨大な爆煙ができることからこの名が付き、現実世界での広島や長崎に投下された原子爆弾を思い起こさせます。
当初ネテロは自らの拳で王との闘いに臨み、本気で倒すつもりの攻撃を繰り広げていました。
爆弾はあくまで最終兵器であり、できれば使いたくなかったのでしょう。
しかし王の足元にも及ばず、自らの死を感じ取った瞬間に薔薇を発動させたのです。
貧者の薔薇が及ぼした影響
ネテロの自爆後、爆煙に巻き込まれ瀕死となった王の姿を見た護衛軍のプフとユピーは自分たちの体の一部を王に献上することで、王を生き返らせます。
しかし貧弱の薔薇の真の恐ろしさ被爆した者の近くにいた者にも感染のように被害が及ぶことでした。
これにより護衛軍2名の命も尽き、最終的にはメルエムと軍儀により長い時を過ごしたコムギまで死に至ります。
手段を選ばずに勝利を手にした人間の残酷さ
ネテロが奥の手として爆弾を選んだことは、人類が生き残るため苦肉の策でした。
しかしキメラアントも種として生き残るために王による生物統一を図ろうとしていたのです。
より強くなるために人間を捕食するキメラアントと、生き残りのために兵器を使用した人間はどちらが残酷なのでしょうか。
キメラアント編の終盤で人間が無意識に虫を踏み潰す描写がありますが、ここで改めて人間が虫の命など気にもとめていないことを思い出します。
この数ページの絵で私たちは人間がいかに残酷かを考えさせられてしまうのです。
キメラアント編の何が凄いのか?のまとめ
蟻の王として生物統一を果たすべく誕生したメルエムとかつて最強の念使いと称されていたネテロ会長の死闘、HUNTER×HUNTERの真骨頂ともいえる壮大な世界観と心理戦が描かれており、キメラアント編において最大の盛り上がりを見せるシーンでもあります。
読むたびに新しい気づきが生まれるので、何度でも読み返したくなりますね。
そしてまるで小説のようなに切ないラストや種の争いの根源を考えさせられる深い設定はHUNTER×HUNTERという漫画のすごさを物語っています。